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【平野浩彦先生インタビュー】歯科医師の視点から見る認知症

認知症の方の中には十分に歯磨きができなかったり、食事をすること自体が困難だったりする人もいるため、食事や口腔ケアは本人と介護者の悩みになりやすいテーマの一つです。毎日行う必要のあることですが、コミュニケーションや介助が難しく、当事者の変化に戸惑う家族もいます。

そこで、東京都健康長寿医療センターで認知症の方への口腔ケアも行っている平野浩彦・歯科口腔外科部長に、認知症治療における課題や食事環境の工夫、当事者への接し方などについて聞きました。                         (聞き手・庄部勇太)

 

問題の本質は記憶力の低下ではなく、生活に支障があるかどうか

―――以前に比べ、一般にも認知症の理解は進んでいる印象を受けますが、先生はどのように感じていますか?

インターネットの普及に伴って認知症に関する情報を得る機会は増えましたが、医療関係者を含め、まだまだ理解は十分でありません。がんの治療では早期発見、早期治療がテーマになっていますが、認知症の場合、その理解が十分でないことから、当事者や家族にとって早期発見が「早期絶望」になってしまっていることも少なくありません。

しかし、初期の段階で見つけ、薬を飲んだり生活環境を工夫したりすることで症状を抑えられる場合もたくさんあります。また、認知症の方の中では症状の重い人が注目されがちですが、中には穏やかな人もいます。

つまり「認知症になったら終わり」ではありません。そのことをまずは理解していただき、偏見をなくすことが大切でしょう。また、認知症に関する情報としては記憶力の低下が強調されがちですが、それによって生活に支障が起きるかどうかで生活環境が大きく関わります。問題の本質は記憶力の低下ではなく、生活に支障があるかどうか、なのです。

声掛けや動作誘導で食事がスムーズに進む可能性が高まる

―――認知症の方が食事をする際に支障がある場合、家族や介護者はどんなことを心がければ良いのでしょう?

食事環境の中にある障害を取り除くことが大切です。

例えば認知症の中のアルツハイマー型の場合、自分で食べ始めることができなかったり、食べ方が乱れたりすることがあります。そんなときに「食べる場面ですよ」と伝えてあげたり、左手にお茶碗を持たせたりすることで食事をするスイッチが入り、食べ始めてくださることがあります。手づかみで食べているのであれば、はしやスプーンの持ち方をわかっていないことが考えられますから、まずははしを持っていただく。声掛けや動作誘導を行うことで、食事がスムーズに進む方も多いんです。

大事なのは「何でできないのかな?どうすればできるようになるのかな」と想像して、食事を円滑に進めるためのきっかけを工夫することです。

―――口腔ケアを行うときに家族が意識しておいた方が良いことはありますか?

子どものころから続けてきた歯磨きについては、認知症になっても覚えていることが多いのですが、動作が適切でなくなってしまうなどしてうまくできなくなることがあります。大事なことは、そんなときでも非難はせず、できたことを尊重する視点を持つことが重要です。

ご家族の多大なストレスを考えると、非難をしないこと、尊重する視点を持つことが大変難しいのは想像できます。ただ、胸に留めておいていただきたいのです。介助が難しい場合は家族で抱え込まず、歯科医院や歯科医師会に相談しましょう。

昨年に策定された国の認知症対策「新オレンジプラン」では、歯科医師による認知症の方への対応強化も盛り込まれていますから、今後、認知症への理解が深まった歯科医師が増えることが期待されます。

当事者を尊重し、非難せずにほめてあげることが大切

――――当事者への接し方についてくわしくお聞かせください。

よく言われることではありますが、その人を尊重してあげることが大切です。「私はあなたを大切に感じています」という気持ちは、認知症の方にも伝わることが多いのです。

やってしまいがちなのが、その人の意向を確認せずに物事を進めてしまうこと。例えば、「歯ブラシを持ちましょう」と言い終わる前に手を取ってしまうと、当事者からすれば自分の気持ちも確かめずに行動を促されたと感じるでしょう。そういったことを続けていくと、認知症の方が心を閉ざし、全く話さなくなってしまうこともあります。

一人の人間として尊重し、声をかけながら意向を確かめてコミュニケーションをしていくことが大切です。

――――最後に、先生の専門である歯科医療と絡めてメッセージをいただけますでしょうか。

1989年から、当時の厚生省と日本歯科医師会が「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という8020(ハチマルニ―マル)運動を展開してきました。この運動の一環として、6年ごとに日本人の歯の残存数を調査しているのですが、2011年のデータでは80歳の38%が目標を達成しました。運動開始当初は1割にも満たない状況でしたから、これは大きな成果でしょう。

その一方で、認知症が発症するのは80代が多く、、85歳の約4割が認知症だとされています。一般的に言われるように、自分の歯で食べ物をよく噛むことは脳に刺激を与え、認知症の予防に役立つとの報告もありますから、自分の歯を残すことは大切です。それを前提として、歯科医療としては現在、歯のある認知症の方に医療者や家族がどのように向き合っていくかが問われています。

実は、歯科医師は認知症の疑いに気付きやすいのです。来院予約の手続きや歯磨きに支障があったり、前の診療のことを覚えていなかったりして「あれ?もしかして」と思う場面があります。しかし、先ほどもお話したように認知症への偏見もまだ多くの方々が持っていることから、歯科医師が違和感に気付いてもなかなかご家族などへ伝えられない現状があります。もちろん認知症への理解が浅い歯科医師も少なくないのが現状ですので、歯科医師と一般の方の双方で認知症への理解を深めていくことが、認知症の人の尊厳を保ちながらその方の生活の支援を続けるための第一歩になるのではないでしょうか。

 

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